つじあやの
つじあやの。1978年京都生まれ。フォークや歌謡を基調とした日本のポップミュージックに大きな影響を受けながら育つ。大学でのフォークユニット「うららか」結成が契機となり本格的な創作活動へ。ユニットと並行してソロ活動も開始。ウクレレ弾き語りと言うユニークなスタイルの地道なインディ活動が実を結び99年ミニアルバム『君への気持ち』メジャーデビューに至っています。管理人が彼女に出会ったのはかなり遅く、はっぴぃえんどのトリビュートアルバム『HAPPY END PARADE』に収録されていた「暗闇坂むささび変化」をカヴァーを聴いたのが最初でした。このトリビュート盤自体は空気公団目当てで買ったものだったのですが、1番印象に残ったこの人の歌でした。彼女の音楽の魅力は一言で言ってしまえば“声”です。私のベスト女性歌手の名を欲しいままにする空気公団の山崎ゆかりさんに非常に似ているアルトヴォイスなんですね。ですがつじさんの場合は山崎さんと違ってしっかりと自分が女性/女の子であることを強調する声なのです。その声によって紡ぎ出される歌詞も山崎さんと同じく一人称が“僕”なんですね。そして歌詞の内容が山崎さんのそれより非常にロマンティックで妄想癖気味(笑)男子の僕としては妹の少女漫画を覗き見してしまったような気恥ずかしさを感じると共に非常に新鮮で穏やかな風を感じました。あと強調して強調しすぎないのが彼女のつくプロデューサー・アレンジャーの優秀さ。メジャーデビュー当時はまだまだウクレレによる弾き語りが主体でしたが、シングル「恋人どうし」でプロデューサー兼アレンジャーとしてタッグを組む根岸孝旨の存在が僕にとっての彼女を聴き続ける要因としては大きいです。彼はDr. Strange Loveという自身のユニットをやりつつ、Coccoのプロデューサーを務めたり、奥田民生のパーマネントバンドでベースを弾いたり、くるりのシングルでドラムを叩いたりと何かと彼の音を聴く機会は多いのですが、ここに来て彼のポップスベストワークスの1つとして挙げられるぐらいの仕事を見せています。絶妙のオブリを奏でるクリアなエレキギター、ふわっと柔らかくあるかないか分からないぐらいの絶妙の在感の電子音、疾走するストリングス、全てがポップスを知り尽くした人の“分かってる”仕事っぷり。彼女は他にもトーレ・ヨハンソンなどを招聘するなどしてポップな質感と言うのを追及し続けています。彼女のそうしたさり気ないポップセンスが損なわれない限り僕は彼女の音楽に魅了され続けるでしょう。
『Balanco』
1、あの子のしあわせ
2、サンデーモーニング
3、愛のかけら☆恋のかけら
4、僕の好きだった人
5、悲しみは果てしなく
6、恋人どうし
7、君に会いに行きましょう
8、僕のすべて
9、星の輝き
10、君の花が咲いていた
11、いつまでも二人で
2002年発売の3rdアルバムで根岸孝旨とのタッグ結成後初のアルバム。それまでのアルバムで顕著だった孤高のウクレレ奏者というイメージは本作に置いて限りなく影をひそめた。それ故彼女の本質的なポップソングライターとしての力量とシンガーとしての魅力両方を満遍なく味わえる傑作となった。アレンジはこれまでの作品がモノクロームと例えられるアレンジだったとすれば、本作は“総天然色”。しかし彼女の音楽の最大の特徴である、決して海外の音楽に寄り過ぎることがなくあくまでフォーク歌謡/ポップスとしての機能が全く削られてないのにはちょっと驚くべき所だと思う。アルバム自体は短い曲ながらも冒頭M1からもう妄想モード全開の歌詞が囁かれます。イントロ的なM1に続くM2なんとヴェルヴェットアンダーグラウンドと同名曲か!と我々なんかは興奮しますが、あちらが疲れを抱えた日曜日だとするならば、こちらは超晴天の日曜日をウキウキしながら散歩する様な曲。この曲は根岸氏ではなく本人のプロデュース作品で、アルバム中もっともシンプルで軽快なギターポップと言える。しかし、アルバムの実質1曲目からこの和み具合は半端じゃない。続くM3はシングル曲。さぁここから根岸節炸裂。つじさん自体はウクレレで伴奏をつけているものの曲自体は完璧にバンドサウンド主導の疾走気味オーケストラル・フォークポップ。サビでヴォーカルが薄くダブルトラック気味になる所なんて散々使い古されてるけどアレンジのまとまり具合も相まって壮絶な効果をあげている。この曲が好きになれないなんて心がチタンで出来ているのに違いない。M4も根岸氏プロデュース作品。にしてはかなりシンプルな作品に仕上がっている。ギターが良いなと思って聴いてると演奏しているのは日本屈指のアコースティックユニット、山弦のメンバーである小倉博和である。割と淡々としたつじさんの歌唱にオブリガードで実に豊かな彩りを付けていくさまはさり気ないけど、圧巻だ。M5はつじあやのプロデュース作品。濃厚な根岸作品の後にのびやかなつじプロデュース作品を交互に置くという曲順は聞いてて食傷りを起こさないための重要なスパイスだ。M6はまたもや根岸氏プロデュースのシングル曲。この曲に下らない解説はいらない。詞とメロディとアレンジと声にただただ痺れてください。M7はお客様の登場。邦楽SSWの中では評価の高い斎藤一義とのデュエットである。プロデューサーを立てずに即興的に録音したのが窺えるいい空気を持った作品だ。やる気の窺えにくい斎藤のヴォーカルとここではあわせたかのような1本調子なつじのヴォーカルが上へ下へ交差しあっという間に終わってしまう。不思議と癖になる変な組み合わせだ。M8、M9になると初めてつじ、根岸以外のプロデューサーの作品が出てくる。変なエフェクトや的外れ的な(管理人の好みと違うの意)音の作り方がやや気になるがつじさんの曲のアヴェレージの高さと、サザンオールスターズのメンバーを引っ張ってくるような周到さで退屈になるのを何とかカヴァー出来ている。M10はキター!という感じのつじあやの&うららかブラザーズのプロデュース作品。超牧歌的な曲調に女性コーラス、と言うより“女学生コーラス”が突入してきてお兄さんは天国にいるかのよう(笑)。オーラスM11は冒頭からサーフミュージックや先ほども出たSASの曲を思い起こさせるようなイントロで始まる。つじさんが本当に日本のポップスや歌謡曲を愛していると言うことが分かるような穏やかな曲で終わる。全11曲曲の質、流れ全てがリスナーが心地よくなれるように出来ている。ふっと優しいつじワールドは中毒症状を起こさせると決定付けたアルバムだと思います。いいなぁ。