CSN&Y
CSN&Y。その発端はBeatlesが登場したことによる一種のバンドブームによって誕生したバンドたちの相次ぐ失速、及び解散だった。それによって素晴らしい才能を持った人材が多数路頭にまよってしまっていた。しかし時代は自由を求める1969年。もっと従来の形態に捕らわれず自由な形で、各々が並列に音楽が出来ないだろうか。そんな発想の元集まったのがByrdsのデビット・クロスビー、Holliesのグラハム・ナッシュ、Buffalo Springfieldのスティーヴン・スティルスの3人。彼らは当時クロスビーと恋人関係にあったジョニ・ミッチェルの家へ集まりなんとなく音を出しているとこの3人がとてつもなく特徴のあるコーラスが生み出せると発見。3人はそのままグループ活動へ。グループの名前は各人の名前を羅列しただけの“クロスビー、スティルス、ナッシュ”と呆れる位シンプルな物になりました。そして69年の『CS&N』でデビュー。作品はドンドン過激になるロックシーンの風潮を軽やかにかわすような柔らかなコーラスとアコースティックギターを基調としたサウンドになりました。この穏やかとも言えるサウンドに時代は熱狂。アルバムは大ヒットを飛ばし、ミュージシャン筋からも高評価を得るという破格の成功を収めました。それに乗じてスティルスが「今度はロックンロールもやろう」ということで白羽の矢がったのがスティルスの元同僚であるニール・ヤング。ヤングとスティルスはギターで殴り合い(比喩表現じゃなくて本当にギターで殴りかかっていたようです)をするほど犬猿の仲であったというが、それでもスティルスがヤングを誘い、それをヤングが了承したというのは余程互いの才能を認めあっていたのでしょう。そうして製作されたアルバム『デジャ・ヴ』(70年)は所々耐え切れないほどの緊張感を放ちながらも70年代の西海岸サウンドを象徴するような歴史的名作になりました。しかしこの緊張感を保つのは至難の業で翌年のライブアルバム『4ウェイ・ストリート』(71年)の時点でヤングはグループを離れ、ソロ活動に専念。残された3人もこれで燃え尽きたか、グループとしてのパーネントな活動を停止。それ以降は何年かに一度、CS&NやCSN&Y名義で作品が出されるなどして、断続的にグループは続いてます。作品の内容的には全盛期(というか“本活動”とすべきか)の3枚に比べるべくも無いですが、全体的に穏やかフィーリングが包み込んでます。半面ライブブートなどでは相変わらず激ハードロッキンなのが少しおかしかったりします(笑)僕にとってはCS&N、及びCSN&Yは洋楽で最初に嵌った地域である西海岸の中でも最も好きなグループでした。独特の3・4声のコーラスのパートを一生懸命分解して真似してみたり、スティルス独特のフィンガーピッキングも凄い勉強しました、そんなことをしたグループは多分Beatlesとこのグループだけですね。このグループのお陰で一時期本気でマーチンのD-45を買おうか悩みました。だって普通のアコギじゃ「Carry On」のリフのジャリジャリ感が出ないんだもん(笑)このグループの作品を聴いてると下らなくも一生懸命だった頃の青い気持ちが蘇えってきます。
『Deja Vu』
1、Carry On
2、Teach Your Children
3、Almost Cut My Hair
4、Helpless
5、Woodstock
6、Deja Vu
7、Our House
8、4 + 20
9、Country Girl Medley: Whiskey Boot Hill / Down, Down, Down / Country Girl (I Think You're Pretty)
10、Everybody I Love You
1970年作品。時代はまさにWoodstock真っ盛り。その象徴としてジミ・ヘンドリクスとスライ、そしてこのグループがありました。作品の方は前作『CS&N』の成功を受けて更なる上のステップへ、という意図のもとニール・ヤングが招聘されて製作されています。他にも補強メンバーとしてDrumsにダラス・テイラー、Bassにグレッグ・リーヴスが迎えられています。確固たるリーダーを置かず各人が自立して並列に作曲し、演奏し、歌う。このスタイルは当時から見ても非常に革新的な仕組みであったでしょう。常に耐え切れないほどの緊張感が付きまといながらいいものを、という目標のみが共通点の彼が一丸となって通常のバンド以上のグルーヴを物にしていく様はまさしく新たな時代の到来を思わせます。内容は1曲目から“The Maritin Sound”な鈴鳴りのアコースティックギターがブンブン・ジャリジャリのリフを叩き出された後、あのユニゾンに近い感覚のコーラスが浮き上がってくる稀代の名曲。この曲は中盤からの展開も凄くていきなりラテン風味(スティルスの趣味)の曲調になります。2曲目はいかにもナッシュらしい優しい視線に満ちたアルバム中最も牧歌的な空気を持ったこれまた名曲。まだまだ青年だった彼らが自分の子供を持つようになり成長していく様子が感じ取れます。M3はクロスビーにハードロッキンなブルースロック。早くもヤングとスティルスの激しいギターバトルが聴けます。M4はニール・ヤングのキャリア中でも屈指の名曲。歌詞でどうしようもなくなってしまった自分を蔑む情けない歌だがぐっと抑えられたテンポ、ヤングの声と相まって中々に切ない。M5はその名のとおり愛と平和の3日間を象徴するジョニ・ミッチェルのペンによる曲。実際映画のエンディング曲にも使われた。コーラスアレンジ、ギターバトルのはさみ方とよく出来た名曲であると思う。M6はクロスビー作によるアシッドフォーク調のナンバー。バーズ時代からそうだが、クロスビーの本質はM3ではなくこういう曲調にある。M7はナッシュによる極上のフォークポップスクラシック。歌詞もコーラスのアレンジも非常に可愛い。緊張感のある作風が多い中こういう作品があるのもアルバムを長く聴き続けられる一因だと思う。M8はスティルスによる弾き語り曲。ウイスキー・ア・ゴーゴーが出自のスティルスらしいフォークっぽくなりすぎずほのかにブルースの香りがする弾き語りだ。M9はこの頃のヤングらしい大作志向のメドレー曲。キーボードがフィーチャーされたシンフォニックなサウンドに仕上げられている。ヤングの作品の中でもかなり珍品だ。オーラスM10はグループの魅力を全てぶち込んだようなロックンロールチューン。みんな愛してるよ、といかにもWoodstock世代らしいメッセージで本作は締めくくられる。この希望とエナジーに満ちたグループは70年代西海岸音楽指針となるかと思われましたが、グループ自体はアルバム発表半年も経たないうちに空中分解。その後の西海岸ロックの隆盛は「CSN&Yは俺たちカリフォルニアの希望だったんだ。それが目の前で壊れていってしまった。」と語ったイーグルスの登場間で待たねばならなくなったのです。