Jimi Hendrix
ジミ・ヘンドリックス。1941年11月27日アメリカ・ワシントン州シアトルに生まれる。早々に学校を中退し、空軍の空挺部隊へ。しかし足と背中を負傷し免役となる。それ以降は流しのギタリストとして、ヒッチハイクしながら旅を始める。そうして演奏旅行を続ける中、「ツイスト・アンド・シャウト」で有名なアイズレーブラザーズに声をかけられた事がキッカケになり多くのブルースやソウル系の黒人アーティストのステージでギターを弾き注目を浴びます。それが元アニマルズのチャス・チャンドラーの目に止まり、渡英。それ以降は皆さんの知る活躍をするのであります。ジミ・ヘンドリックスと言う人はアンプのフィードバックを駆使したギターノイズが1番有名でしょう。彼が居なければもしかしてソニック・ユースも裸のラリーズもジーザス&メリーチェインもスペースメン3もマイ・ブラッディ・ヴァレンタインもモグワイもゴッドスピードもホワイトハウスもメルツバウもDNAも誕生し得なかったのかもしれません。勿論テクニカルな面でもハードロックやメタル勢からの冷めることの無い熱い支持も忘れてはなりません。そうしたノイズ・ギタリストという面とブルーズやR&Bに根ざしたソングライターとしての彼も見逃せません。「エンジェル」や「リトル・ウィング」での叙情的な味わい、「イザベラ」や「フリーダム」、「パワー・オブ・ソウル」等の後期作品でのファンクとも言えるグルーヴを持った楽曲の独特の切れは彼を単なる時代の産物的な“薬中の伝説のロック・スター”たらしめず永遠普遍の響きを感じ取れる要因なのではないでしょうか。よく「○×によってギターに目覚めた」という人はよく居ますが、僕はジミ・ヘンドリックスによってああいうソロイスト的なギタリストの方向性というのを完璧に諦めました。だってこの人ソロを歯で弾くんだもん(笑)。彼と出会った当時私はそういう衝撃を受ける一方でスタジオ盤での彼はあまり好きなれませんでした。エディ・クレイマーによるリマスタによっても1st「Are You Experienced? 」の音は劣悪で、どの曲もギターソロが中途半端に終わっています。これはラジオ乗りを良くするために不要な曲の肥大化を防ぐジミ本人の意志とは無関係な所にあった問題ということは容易に察する事が出来ます。今彼の偉大さを理解できるようになった今となってはあの馴染めない感じが懐かしい感じがします。
『Are You Experienced?』
1、Foxey Lady
2、Manic Depression
3、Red House
4、Can You See Me
5、Love or Confusion
6、I Don't Live Today
7、May This Be Love
8、Fire
9、Third Stone from the Sun
10、Remember
11、Are You Experienced?
12、Hey Joe [Bonus]
13、Stone Free [Bonus]
14、Purple Haze [Bonus]
15、51st Anniversary [Bonus]
16、The Wind Cries Mary [Bonus]
17、Highway Chile [Bonus]
1967年発表の「Jimi Hendrix Experience」名義での1stアルバム。“満足な靴も持っていないギタリスト”であったジミ・ヘンドリックスがローリング・ストーンズのギタリスト・キース・リチャーズのガールフレンドに認められ、そのガールフレンドがこっそり持ち出したキースの白いストラトキャスターをジミに与えたことによって全ての運命の歯車は動き出す。このアルバムは人類史上最高傑作の1つ、ロックンロールの全てを破壊し尽くした演奏等ありとあらゆる賛辞が並べられる大傑作であります。ジミのエキセントリックな域にまで達したエレクトリックギターの奏法、ミッチ・ミッチェルのドタバタとしながらも煽情的なドラミング、急造のベーシストであるノエル・レディングのこの時点ではギターについていくのが精一杯というベースと頼りなさげなコーラス(笑)。いずれにせよ、この3ピースによる本作のサウンドはいわゆるザフーやクリームと同等、もしくはそれ以上のバンド・グルーヴを主体とした物でした。それと同時に薬物などを普段から摂取していたからか、もしくはジミが宇宙人だったからか、時代の産物なのか、回転系のエフェクトが多用されサイケデリックな印象も残します。アルバム自体はブルーズとロックンロールの解体が行われていますが、逆にそれらの美味しい所を全て抽出したような楽曲で埋められていて、なるほど名盤と納得させられていしまいます。ハマリングとプリング・オフしまくりのギターがフェードインしてきてジミならではのアクの強いリフでアルバムの幕開けを告げるM1、終始ジミのギターがフューチャーされる轟音疾走ナンバーであるM2、ジョン・リー・フッカーなどにもカヴァーされ多くのブルースミュージシャンに愛されたバディ・ガイ風のスローブルースであるM3、いつもの轟音ナンバーでありながらもどこかファンキーな味わいを湛えたM6、まだまだノエルのぎこちないコーラスがフューチャーされる人気曲M8、サイケギターインストのM9、ジミが初めてソングライターとしての本性を見せるM10、本盤に漂うブルーズとロックンロール、そしてサイケデリックな味わいを全部ぶち込んだ名曲M11で本編は終了。後追い世代の我々がまず手にする本盤のCDは恐らくこの当時のプロデューサーであるエディ・クレイマーが入魂のリマスタリングが施されてる盤なので上記のように大量の曲がボーナストラックに多数収録されております。そのボーナスでは管理人がギターを諦めた(笑)ブルーズカヴァーのM12、もうすでに後期のファンク路線への繋がりを感じさせる管理人が本盤で1番好きなM13、誰もが一度は聴いたことがるのでは?と言う程の名曲M14などが収録され本編だけでも最強の名盤なのを更に完成度を高めています。ロックが好きかどうか、そんな問題を超越して一度は聴いてみるべき名盤です。必聴。
『Axis: Bold as Love』
1、EXP
2、Up from the Skies
3、Spanish Castle Magic
4、Wait Until Tomorrow
5、Ain't No Telling
6、Little Wing
7、If 6 Was 9
8、You Got Me Floatin'
9、Castles Made of Sand
10、She's So Fine
11、One Rainy Wish
12、Little Miss Lover
13、Bold as Love
1967年作品。前作の衝撃の登場で一躍時の人となったジミ・ヘンドリクス。時代は前作から今作の間までに一気にサイケデリックの時代に。皆が薬物でヘロヘロになってる時代、ジミは一人薬物を決めながらも宇宙を見つめていた。それが恐らくジャケットにも現れているだろう。一見サイケデリックながら、これはジミの見つめた宇宙と繋がるインドの思想をあわせたものだ。いわゆる『リヴォルヴァー』以降な音であった前作はいわゆるサイケデリックムーブメントの象徴として扱われた。続く本作もジャケットからはそれの延長上として映るかもしれない。しかし冒頭の『EXP』以外はジャケットのイメージほどのサイケ感は無い。全体を通して聴くと内容はR&B調のロックンロールアルバムだ。それはいわゆるブリティッシュ・ビートのR&Bでもなく、モッズのR&B解釈でもない、黒人としてのアイデンティティに満ちたしなやかなR&Bフィーリングだ。そういう意味でジミ・ヘンドリクスはブリティッシュインヴェイジョンでロック強奪されたアメリカからの刺客だったのかもしれない。このアルバム以降のイギリスでビッグネームになるバンドでR&Bやブルースを前面に出したバンドは少なくなる。アルバムはサイケコラージュのM1が終わると早速R&B感覚が濃厚なM2に突入する。クリアトーンにワウを噛ませたギターをバッキングにジミが韻を踏みながらヒッピームーブメントに懐疑的な歌詞を乗せる。M3は言わずと知れた轟音エレクトリックナンバー。ジミのギターも素晴らしいがここでは完全にジミと一体になっているミッチ・ミッチェルのドラムを絶賛したい。ノエルのベースもようやく2人に追いついてきた印象がある。恐らくエクスペリエンスと言うバンドにおける最高の一曲だろう。M4になると轟音は収まりファルセットのコーラスがやはりブラックフィーリングを感じさせる。ここでもミッチのドラムは水得た魚のように活き活きしている。ジミも軽めにカッティングやオブリをキメながら、歌の方にも余裕たっぷりだ。M6はジミ切ってのバラードの名曲。決して黒人のヴォーカリストとしてキャラクターの豊でないジミであったが、この曲によって己の声を活かせるタイプの曲を発見した感がある。ちなみにこの曲はクラプトンの参加したデレク&ドミノスでカヴァーされているのが有名だ。ここまで殆ど正調R&B経由のロックを展開してきているが、これ以降ややサイケな音処理が目立つようになる。M7〜最後までは曲の中盤以降我慢が出来なくなってしまったかのようにエフェクトが加えられ始める。このアルバム後半の曲は音処理としてサイケなものが増えてきているが曲がサイケに対応しきっていない(エフェクトで崩しきれるほど緩いつくりの曲が殆ど無いという意味)ため完成度が中途半端だ。次作『エレクトリック・レディランド』に展開される異常なほどサイケな音は曲が最初から曲がサイケ対応であったからこその出来、だと管理人は思っている。M10になると空気が読めていないノエルのブリティッシュビート風の曲が挟まれるが、ここではジミのギターが素晴らしいので特に文句は無い。そして最後のM13はオーヴァーダブされた2本のギターに物憂げなジミのヴォーカルが切なげに歌い上げる名曲。ギターの絡みが背筋が寒くなるほど良い。しかし、一旦終わったと思われるブレイクの直後サイケギターソロが無理やり押し込まれている。やはりあれだけ見事な曲の後に何か入って来るというのはやはり余計だ、と私は思う。このアルバムは個人的にエクスペリエンス名義で1番好きな作品だが、ロックンロールとサイケの間で揺れるジミの心境が窺える過渡期的な作品とも言える。