空気公団
 まともなアーティスト写真が無くて非常に恐縮ですが、こいうい得体の知れない、匿名性の高い存在感も空気公団というバンドを良く表してると思います。メンバーは結成当時は4人でしたが写真を見ての通りメジャー在籍中に小山いずみ(ky)が脱退し、写真中央の山崎ゆかり(vo,ky)、写真右の戸川由幸(g,b)、写真左の石井敦子(ky,cho)の3人編成に。しかし匿名性が高いといっても存在感だけで楽曲に関しては全く別。これほど現在日本で鳴らされるべきポップスというか音楽は僕はあまり他に思い当たりません。このバンドはいわゆるURCフォーク系、もっというと「はっぴいえんど」チルドレンと呼ばれるバンドの範疇に入る「都市ポップバンド」であると思います。しかしソングライターである山崎ゆかりさんの綴る非常にドメスティックなメロディ、必要最小限のバッキング、柔らかなコーラス。最早、童謡やお母さんの子守唄といっても過言では無い優しい質感。しかし短絡的に“癒し系”と括るには危険な彼岸を思わせる歌詞。彼らの音楽には「死」がキチンと日常として描かれます。もちろん直接的な死を思わせる言葉は一切ありませんが、間違いなくそういう感覚を内包しています。そういう意味で本当に心の日常を描くのが非常に上手いです。そして彼らの音楽には非常に透明感があります。使用楽器なども特殊なものはありませんが、そこが空気公団というバンドのマジックだったのでしょう。こう色々と書きましたが、実を言うと僕はヴォーカルの山崎ゆかりさんの声に完璧に惚れてしまっています(恥)だから僕のレビューは彼女の声にばかり焦点があたると思いますが気にしないで下さい(笑)彼らは自分達でTシャツを作ったり、様々なアーティス達と共同で個展を開いたりとマイペースな活動が続きましたが、2004年メンバーの石井敦子さんの寿脱退(!)を期に第一期空気公団は“融解”とし活動終了する事を決定。第2期以降どうなるかなどは一切白紙のようです。
『わかるかい?』
Pick Up Sound Source
1、わかるかい?
2、白(スタジオライブ)
3、トントンドア
 これは空気公団がメジャーに進出してシングル1枚、アルバム1枚を出した後出された、2枚目のシングルです。このシングルの初回生産分は画像のように「BOOK CD」というCDの中に小冊子が付いてくるという変わった仕様でした。空気公団はこういった特殊な仕様(「融」というアルバムはでかいジャケットだった)で話題を呼びましたが、発売後2年も経たないうちに廃盤が決定してしまったシングルという曰く因縁つきの代物です。サニーデイ・サービスですらシングルは苦戦を強いられていた市場ですから、こういうサウンドには居場所が無かったのでしょうか。そのセールスに反して大充実の内容なのがこのシングルの救い所で、1曲目「わかるかい?」出だし「街から街へ ゆらりと」からもう持っていかれっぱなし(笑)。やはりこの前に発売された「融」というフルアルバムから見え隠れしていたドラム重視のグルーヴの作り方が段々と熟成されてきている感じ。ノイズギターは無いものの彼らがローファイなサウンドでデビューしたという点でも「Crooked Rain, Crooked Rain」あたりまでのPavementを髣髴とさせる。2曲目はゲストを交えてのスタジオライブ。出だしが山崎さんのヴォーカルではない(ゲストのヴォーカル)ので腰が抜けそうになったが(笑)、山崎さんがヴォーカルに変わってからはやはり作曲者ならではの独特の節回しをキチンと把握している。ゲストの演奏は特に取り立てるものは無いもののいつも以上にバッキングに厚味が増して新鮮味を出している。そして演奏中の彼らは楽しそうだ。最後の曲が「トントンドア」。タイトル通り「トントン」とノックの音や木琴やリコーダーの音が温かみのある音色を出している。この歌は歌詞が非常に印象的。「トントンドア また逢えるといいな さよなら 今日の みんな」と2度繰り返されるだけで歌は終わってしまうが、このシングルとお別れ、シングルを一緒に作ったゲストのみなさんとお別れ、このCDを聴いてるのあなたとお別れ、とその全てが詰まってながら淡々としたエンディングに何ともいえない寂しい気分になり、またこのシングルを初めから再生してしまう。
『こども』
 2003年4月リリースの事実上第一期空気公団のラスト・フルアルバム。アルバムはインディ時代のカセット音源などを収録した編集盤を除けばこれが2枚目のアルバムであります。ここの段階で空気公団はメジャーのトイズファクトリーとの契約を終了し、インディの古巣・コアレコーズに戻っています。前作にあたるミニ・アルバム「約束しよう」でほぼ完成されたどっしりしたドラムによる下(グルーヴ)の出し方はこのアルバムでは更に進化・洗練をされている。相変わらず山崎ゆかりさんの曲の紡ぎ出すメロディは絶好調でなぜインディに移ったのかが全く理解できない充実振り。どれもしっくり来るメロディやコード感のセンスは松任谷(荒井)由美レベルまで来ちゃってるんじゃないかと思わせるほど。ゲストに七尾旅人、お馴染み荒井良二などが参加。このゲスト参加や楽曲の充実振りをみてもこれまでの空気公団の集大成的な作品となっています。それにしてもこのアルバムは空気公団がはじめてアルバムというフォーマットに適応可能なアーティストであると言う事を証明した作品でもあると思います。もちろんメジャー1stの『融』は大好きですし、これから僕が一生聴き続けると思われる曲も入っています。しかしやはりミュージシャンやアーティスト然とせず、気の向くままに出せる音源をカセットなりミニアルバムで発表して来た彼らにとって『融』という作品は戸惑い(特にアルバム後半の出来)が感じられる作品でありました。しかし「やっぱりフルアルバムは無理なんじゃないかなぁ」といった僕の認識を見事覆してくれたのがこのアルバムの凄い所で1曲目からボーナス・トラックまで全く隙が無い。これまで彼らの主要なファン層を形成していたと思われるローファイ・ファンには受けが悪いと思われるほどクッキリとしたポップス的な音像も自分の物にした空気公団第一期唯一の作品と言っても良いのではないでしょうか。次作にあたるミニ・アルバム『ねむり』は少し初期を振り返りつつ空気公団以降の音を自ら展開していく彼らの続きが是非聴いてみたかった。
1、白のフワフワ
2、音階小夜曲
3、季節の風達
4、あかり
5、電信
6、今日のままでいることなんて
7、壁に映った昨日
8、例え
9、旅をしませんか
10、こども
11、おかえりただいま(Bonus Track)