Number Girl
 ナンバーガールは日本でも数少ないオルタナティヴ・ギター・ロックバンドです。1995年8月福岡県博多市で結成。メンバーは向井秀徳(vo,g)、田淵ひさ子(g)、中尾憲太郎21〜28歳(b)、アヒト・イナザワ(ds)の4人。活動期間は1995年から2002年11月一杯まで。しかしメジャーからのコンスタントな音源リリースは99年から。それから解散までの3年間が実に濃密な期間でありました。フロントマンの向井秀徳がナンバーガールと言うバンドで提示したある種の“方法論”と言うのは政治的な姿勢や綺麗な文学的表現や情けない男の性でもなくある種『ガロ』的な“認識したくもない無い青年期リアリティの発露”だったと思う。それはヴォーカル向井の“喉を開ける”と形容されたシャウトに乗せられる歌詞に顕著に表れていると思う。その歌詞は女性への憧れと疑いの視線、他人とのディスコミュニケーション・フィーリングを内に切り込んで行くというより“外に向かってキレながら吠える”といったまさしくオルタナティヴな価値観を提示している。バンドの演奏やアレンジもそれを加速させるかのようなキリキリとした焦燥感や疾走感に満ち溢れている。そしてこのバンドが特殊だったのはメンバーのルックスや言動も常にファンを沸かせていたと言う事実。ヴォーカル向井は早くからサブカルチャー的カリスマキャラクターを確立させ、「バリヤバイ」など一部では大流行するほどの流行語(?方言だけどな)を流布したり、紅一点のギタリスト・田淵ひさ子の日本人形のようなルックスに恐らく男性ファンの5・6割は「結婚してくれ」と思っていたはずだ(笑)。そういう意味も含めてナンバーガールのファンは楽しい人が多く、音楽的にもオルタナティヴな価値観を身につけている人が多いのがこのバンドを特別な物にしている理由の一つであると思う。
『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』
1、タッチ
2、PIXIE DU
3、裸足の季節
4、YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING 
5、桜のダンス
6、日常に生きる少女
7、狂って候
8、透明少女
9、転校生
10、EIGHT BEATER
 1999年7月23日リリースのナンバーガールメジャー1stフル・アルバムでバンド2作目に当たるのが本作。本来ならインディでの本当の1stアルバム『SCHOOL GIRL BYE BYE』から取り上げるべきなのかもしれないが、やはり音質・演奏の熟練と言う点でこれを最初に取り上げました。まず目につくのがこのジャケット。これはメンバーの向井秀徳によりイラストレーションだがこれを筆頭にアルバムインナー全編に渡って向井のキレ気味のイラストがフューチャーされる。この段階で既に僕なんかはワクワクしたもの。中身はと言うと冒頭の「タッチ」におけるアヒト・イナザワの「殺伐!」と言う掛け声からバンドのテンションは非常に高い。しかし一聴した感じは歌詞が聴き取りにくく、遠くで鳴ってるようなヴォーカルが印象に残る。これは向井の意図した所らしく、ある種のとっつきにくさがある。これは一種のディスコミュニケーション感覚(伝わりそうで伝わらないetc)をこのヴォーカルの音作りに反映させたのではないかと私は思っている。後とにかくドラム(特にスネアとハイハット)とベースが馬鹿みたいにデカくミックスされている。ギターをテキトーに歪ませてデカくミックスしたり、ドラムが極端に小さかったり、ベースなんてほぼ聴こえないのが所謂一般的なJ-POPバンドの音作りですが、これは全くの逆ベクトルの代物でいかに向井がザ・フーやツェッペリン等に代表されるバンドグルーヴと言う物を重視していたかが偲ばれます。そして全体としてみると本作はナンバーガールのディスコグラフィ中最もメロディアスな作風といえるでしょう。向井がリスペクトを公言してはばからないピクシーズ風なM4、静と動の構成にカタルシスを感じるM6、デビューシングルでナンバーガールには珍しい疾走ギターチューンの名曲であるM8、前曲の流れを汲むナンバーガール流ギター・ポップのM9、向井の壮絶なハードコア・ヴォーカルが堪能できるM10など名曲揃いで捨て曲もゼロに近く本作をベストに挙げるファンも少なくない。しかし、このナンバーガールというバンドが本当に凄かったのはこの後の進化のスピードとその変遷であり、本作は音質や演奏の迫力といった点でダイヤモンドの原石が削られ始めたばかりといった印象が残る。
『SAPPUKEI』
1、BRUTAL NUMBER GIRL
2、ZEGEN VS UNDERCOVER
3、SASU−YOU
4、URBAN GUITAR SAYONARA
5、ABSTRACT TRUTH
6、TATOOあり
7、SAPPUKEI
8、U−REI
9、YARUSE NAKIKOのBEAT
10、TRAMPOLINE GIRL
11、BRUTAL MAN
前作から海外レコーディングによるシングル2枚、ライヴアルバム『ブヤROCKTRANSFORMED状態』を挟み2000年発表されたメジャー2作目のオリジナル・スタジオレコーディング・アルバム。DVD『ナンバーガール』によればバンド自体はメジャー音源を発表する前(シングル『透明少女』以前の意)に海外の小さなフェスに参加しその足で本作のプロデューサー/エンジニアでもあるデイブ・フリッドマンとコネクションを持ち即座に彼の所有するタルボックススタジオでシングル『DESTRUCTION BABY』の収録曲全てを録音し終えて帰国し、ようやくメジャーデビューを飾っている。やはり前作と『DESTRUCTION BABY』、本作の圧倒的な違いはまず音、である。前作『SCHOOL〜』はやはりどこかモコモコとした音質で通常の再生システムで聴くよりちょっとしたラジカセやMDに落として聴く方が映えるようないかにもインディ・ロックな音だった。それに比べ本作は向井秀徳にして「音をどう鳴らして、どう響くか全て分かってる造りのスタジオ」と評されるたデイブのタルボックス・スタジオによるレコーディング作品なため低域・高域ならず、前作の最大の売りであった中音域ですら凌いで見せている。その響きはリスナーをベースでたこ殴りにし、ギターで切り付け、ドラムはマシンガンにもバズーカにもなって爆殺。それが圧倒的テンションと意外なほどポップな構成の曲で奏でられる。向井のヴォーカル自体もテンション的には現在のZAZEN BOYSと比較しても史上最高の部類。歌詞もますます意識の混濁(酩酊)具合が進みながらも鋭さが増し続け、最早この時点で前2作のアルバムで見られた“センチメンタル過剰”な向井は姿を消している。内容としては1曲目からアヒトが“論・客・用・無し!”と切り出し曲がスタート。一音目、というより“ファースト・インパクト”としか形容できないようなドラムサウンドが飛び込んでくる曲的にはグラム・ロックのような曲なハズなのだがギターの軋み具合がそれを楽しげにはさせず気合の入った曲に聴こえる。歌詞は自己紹介のためのバンドアンセムで、出自、現在、これからを力強く謳い上げるといった趣。M2は一部で大いに流行った“バリヤバイ”という言葉を流布。しかしそれだけではなく曲自体もかなりの名曲。いわゆるヴァース・コーラス〜の構成の曲だが、この曲の場合ヴァースの時点でもう既にカタルシスが漲っている。そしてコーラスになるとそれが更に暴発するから聴いてて異常な快楽の得られる一曲だ。M3もその快楽の余韻に浸らせること無く、アヒトのドラムと向井のヴォーカルが主導する超疾走ナンバー。特にドラムには殴られているかの様な感覚を引き起こさせるような凄まじさがある。M4は先行シングルで、ZAZEN BOYSにおける向井のジャズ/AOR志向の一端を覗くことが出来る。この曲は特にDVD『騒やかな演奏』における向井本人によるフェンダー・ローズピアノの乱打は壮絶な見物だ。M5は管理人が本作で一番好きな曲。ドラム、ベース、ギターの全てがニューウェーヴ的痙攣ダブ/ファンクサウンド奏でるかと思いきや終盤に入ると一気にバンドが疾走。“先生あなたは誰ですか?先生お前は誰なんだ!先生貴様は誰なんだ!”と向井が喉全開で吠える瞬間に立ちあえば未だ鳥肌が止まらないこともしばしば。M6は前曲のニューウェイビーな空気を引きつつもやっと我が田淵ひさ子嬢の発狂ギターソロが炸裂。あの顔でこんなギターソロ弾かれたらそら惚れるって(笑)続くM7、M8とかなりささくれ立ちながらも向井独特のメロディはさほどポップではないが構成がポップな曲が続く。この曲辺りから現在まで続く向井の自問自答歌詞が始まる。M9は典型的向井の“曲作り、煮詰まってますSong”。曲中色々試みているのが窺えるが、結局崩壊してしまっているような気がしないでもない曲で、歌詞もアルバム中数少ない以前の向井のモードを引き継いだようなややセンチメンタルな曲だ。M10はナンバーガール史上最も強靭化したバンドサウンドとポップさのバランスが素晴らしい曲。ナンバーガールにはごく初期に同名の異曲があるが、同名なだけあって歌詞を読むにやはりこのアルバム収録曲の中では早い段階で出来た楽曲であることが窺える名曲。オーラスM11は本作を締めくくるのに相応しいバンドの音圧がこれでもかと詰め込まれたこれまた名曲。これまで余計なベースプレイを一切排していた中憲の地を這うベースが少し顔を覗かせるのが嬉しい。以上全11曲。大体以前は音楽評論家の大鷹俊一氏が非常にテンションの高い解説を書くということ自体にやや疑念を感じてた私だが、それは本作で確信へと変わった。4年経った現在でも日本のオルタナ史に残る傑作であるという価値と輝きを未だに失っていないことには、ただただ溜息が出るばかりだ。(2004年10月14日)