くるり
 1996年9月立命館大学の音楽サークルにて結成。結成時のメンバーは岸田繁(vo,g)佐藤征史(b,cho)、森信行(dr)で2001年9月に大村達身(g)が加入し、2002年7月森信行が脱退。2003年11月代わり(もはや「代わり」じゃないかな?)のドラマーとしてアメリカツアー中から交流のあったクリストファー・マグワイアが加入し現在のラインナップ(上写真)となる。個人的にくるりというバンドは日本では数少ない90年代英米の「オルタナティヴ・ムーヴメント(90年代版ギターロック・ルネッサンス)」に影響を受けたバンドであると言うのが第一印象でした。しかし、それは彼らの一面でしかなく、彼らはフォークっぽい質感や音響系、エレクトロニクスやプログレなどまさにグチャグチャ。恐らく彼ら(岸田繁の)の本質と言うのは混沌とした趣向からその時一番良いと思える音楽を自分たちの作品に反映させ、発表していくという事だと思う。メインのソングライターの岸田繁のメロディ、流麗なコード感、意外なほどのリフの才能は90年代に出てきたバンドのソングライターとしてはトップクラスに位置するものだと思います。そしてくるりは歌詞も素晴らしいものがある。どこか頼りなさ気な文系青年が恋をする心情を吐露するストーリーを書かせたら恐らく右に出るものは居ないでしょう。それとくるりというバンドは不思議なバンドで、ソングライターは一人ですがワンマンバンドとは言い切れない要素があります。それは岸田氏の盟友ミッシェルこと佐藤“社長”征史の献身的なベースプレイであり、いわゆる「くるり」というバンドを技術、そしてメンタルの両面を支える重要な人材であると言う事。それは途中加入の大村達身にもいえることで、いわゆる「仲良しバンド」ではなくでここまで上手く繋がってるバンドというのは中々あるものではない、と思う。そしてクリストファーが加入し初めてのオリジナルアルバム「アンテナ」に伴うツアーで日本武道館公演も成功させ、今後も目が離せないバンドである。
『Team Rock』
1、TEAM ROCK
2、ワンダーフォーゲル
3、LV30
4、愛なき世界
5、C’mon C’mon
6、カレーの歌
7、永遠
8、トレイン・ロック・フェスティバル
9、ばらの花
10、迷路ゲーム
11、リバー
 2001年2月リリースのくるりメジャー3枚目のフルアルバム。1枚目『さよならストレンジャー』ではポスト・サニーデイ・サービスを思わせるフォークロックを、2枚目『図鑑』では勢いの良いギターロックと鬼才ジム・オルークの協力による混沌とした打ち込みの楽曲を披露して来たくるりがその軌跡を強引に消化し詰め込んだ渾身の3rd。強引な消化とは言えこれほど「金太郎飴」なアルバムは中々あるものでは無いと思う。客観的な視線から見てもあらゆる楽曲にポップな仕掛けがしてある。「Team Rock」なるヒップホップまで取り入れたイントロダクションで始まり、続くのがくるりの楽曲で初めて大胆なまでに打ち込みを導入しファンの間で大人気の楽曲「ワンダーフォーゲル」。ゲーム世代を皮肉ったような歌詞の「LV30」。どれもエレクトロニクスの印象が濃厚な曲。4曲目は典型的なくるり的ギター・ロック「愛なき世界」。コーラスの入れ方が絶妙。そして5曲目はアンダーワールドっぽいトラックにやダフトパンクっぽい加工されたヴォーカルが印象的な「C’mon C’mon」。そして続く「カレーの歌」ではそれまでのエレクトロニクスの印象を打ち消すかのようにピアノ弾き語り。やはりこのパーソナルなラブソングでのそばで囁くような岸田繁の歌声はとても魅力的。「永遠」でまたもやエレクトロニクスに戻る。今度はDJ Shadowのようなアブストラクト・ヒップホップといわれるような音楽からの影響を感じさせる楽曲。続く「トレイン・ロック・フェスティバル」はくるりが元来ギターロックバンドであること思い起こさせるハイスピードロックンロールナンバー。岸田の間奏終了直前の「トリャー!!」という絶叫が忘れらない。そして「ばらの花」はくるりがこれまで出した楽曲の中でファンやミュージシャンに最も熱狂的に受け入れられた大名曲。ミニマルなギターとピアノのフレーズ。恐らくポリスの「見つめていたい」が元ネタであると考えられるが、なにより岸田のボーカルはスティングよりこういった楽曲にあってるし、スーパーカーからの助っ人・古川ミキのゲストヴォーカルが絶妙。若者的・ミニマルファンクの傑作と言えるのではないだろうか。ばらの花の感動を引きずりつつ始まるのは次作への布石としても受け取れるピアノ・バラードに全体的にエレクトロニクスの処理が施されている佳曲「迷路ゲーム」。最後はシングルにもなり、管理人が個人的に大好きな「リバー」。“このままじゃ お前より出遅れてしまいそうさ”や“You Take Me Higher 俺ら祈ってら”など胸に残る言葉が散りばめられたカントリー風味のポップナンバーでアルバムは締めくくられる。以上全11曲、全て耳にすればどれかあなたの好きな音楽が入っているでしょうと言えてしまいそうなほど、バラエティに富んだアルバムである。実際セールスも好調でくるりのアルバムでは一番セールスを記録したと言われている。そして次作、最新作の音やメンバーの変遷を考えると素晴らしい完成度を誇ったこのアルバムで第一期くるりは終わりと考えてもよいのではないだろうか。
『アンテナ』
1、グッドモーニング
2、Morning Paper
3、Race
4、ロックンロール
5、Hometown
6、花火
7、黒い扉
8、花の水鉄砲
9、バンドワゴン
10、How To Go<Timeless>
2004年発表のくるりの5枚目アルバムにして、現時点(04年)での最高傑作。このアルバム語るにはまず時を2002年のシングル『男の子と女の子』にまで戻さねばならない。このシングルはくるりにしては珍しくアルバムからシングルカットされたシングルで、売上的にもボロボロ。04年の現在でも余裕で初回盤を店頭で見かける。その内容がこの本作を語るときにとても重要だ。アルバムヴァージョンそのままのタイトル曲とリミクス曲以外の2曲が04年現在のモードとそれまでのポストロック志向が絶妙に合わせられた重要な作品だからだ。その内の1つ「踊りませんか次の駅まで」はトラッドな志向にSEたっぷりのせ、独特のくるり的ユーモアセンスを窺わせるインスト曲。もう1つはくるり史上5指に数えざるを得ない名曲「ハローグッバイ」。この曲はくるりのそれまで持っていた良い所を全てぶち込んだような美メロの慕情垂れ流し型ロックだ。歌詞も無意識だろうが明らかにモックン脱退のことを匂わせてしまう。だからこそこれをリードに出来なかったのであろうし、これでくるりは明らかに次のフェーズに向わざるを得なくなった。そしてこのあとくるりはアメリカのツアーに旅立ち音楽を、ロックを見つめ直し帰国。03年9月、約1年の沈黙を破り宅録による傑作シングル『HOW TO GO?』を発表。それはエフェクト類が全く無く、近年のバンドとしては致命的なまでBPMを抑えた、ギターによるロックだった。そして翌年2月シングル『ロックンロール』を発表。現ドラマーのクリストファー加入後初のシングルは『HOW〜』みせた路線を更に強化した2本のギターがほぼノンエフェクトで転がり続けるキャッチ―なR&Rだった。そして迎えたのが本作。本作を管理人の私が一通り聴き終えた時に思ったのが、「これは1968年11月頃のレコードだな」ということ。音もソリッドでいながらも耳に優しいこのアルバムまさしく同時期に発売されたThe Bandの1stを想起させるものであった。明かにサイケ(現代で言えばポストロック)に影響されながらも彼らが主軸として選んだ音はギター、ベース、ドラム、ヴォーカルという何の変哲も無い編成による音だった。それ故この作品は地味だ、という評判が非常に多い。それは確かに8・90年代の音楽を熱心に聴いていたなら当然の感想だとは思う。しかし、ここにあるのはヒップなオルタナバンドとしてのくるりではなく、6・70年代にロックが持っていた魔法を掴もうとした結果があるだけなのだ。「ギター1つで全てを鳴らしてしまいたい」という旨の岸田繁の発言がそれを裏付けてくれるだろう。結果としてこれ以上無い時代性を無視し、尚且つ普遍性のある素晴らしい質感のロックアルバムが出来上がった。中身としては冒頭M1は明らかに英フォークを思わせるストリングスがフューチャーされた美しいナンバーにはじまり、くるり史上もっとも骨太なこれぞロックという演奏が清々しいM2、トラッドを強く想起させるリフがイメージを増大させるサイケナンバーのM3、M4に傑作シングル曲を挟みゲストヴォーカルに五島良子を迎え全編達身のワウが唸りまくる超へヴィグランジナンバーのM5、M6は割と何てことの無いサイケ風ナンバー。この何てことないこの曲が、このアルバム全体的なモードをよく現している。というのも、この何てことの無いサイケナンバーは前作『THE WORLD IS MINE』で見られた鎮静的なポストロック的サイケ感ではなく落ち着いた雰囲気ながらも60年代末のサイケ的な“飛び散り感”に満ちている。しかもそれをエレクトロニクスに頼らずバンドサウンドとして飲み込んでいることを証明する、さりげないけど重要な曲ということが分かる。これが終わると管理人が本作で最も好きなM7になる。この曲はこのアルバムで顕著な“ロックバンドとは、ドラマーとベースがいなければ何も始まらない”という感覚を象徴する一曲だ。ということで特筆したいのがクリストファーのドラムの音と佐藤社長のベースプレイだ。佐藤社長はプログレッシヴなプレイヤーではないが実に“心得たベースプレイ”が出来る数少ない人材だ。くるりが解散する時が来るとすれば佐藤社長が辞める気になる時であろうと思えてしまうぐらいだ。そしてM8は前作の「GO BACK TO CHINA」を気に入ってくるりに加入したクリストファーの要望叶えるために作られたのでは、と思えるほど路線的に似ている曲。オリエンタルなフレーズが見事にロックバンドの曲の一部として機能している見事な楽曲だ。M9は12弦アコースティックギターの響きがくるりらしく美しすぎないのが嬉しい弾き語りの1曲。ヴォーカルがファルセットになると背筋が寒くなる。そしてオーラスが前年にシングルとして発表された「HOW〜」の<Timeless>というアルバム・ヴァージョン。ただでさえ音圧レベルが低いこのアルバムで、更に音が悪くなるスタジオライヴであろうと思われるテイクだ。エンジニアの高山徹氏の労をねぎらいながら、この4人の奏でるロックサウンドに感動せずにいられない。全10曲、決してソングオリエンテッドだったり、新しい方法論があったり、態度的にレトロ・モダンに接近する風もないからやはり一見地味かもしれいない。しかし本作は優れた才能を持ったバンドが何でもアリの“ロックの原点”を悟り、見つめたが故の跳躍力をもった大傑作。00年代にこんなバンドが日本で、尚且つ現役でいることをファンならずとも全てのロックリスナーは感謝しなくてはなら無い。