The Stone Roses
1984年結成。メンバーはイアン・ブラウン(vo)、ジョン・スクワイア(g)、レニ(ds)、マニ(b)の4人。デビューシングルではイアンとジョン以外のメンバーが違ったり、マニは3枚目のシングル以降の参加だったりしますが、この前記した4人がオリジナルメンバーと考えていいでしょう。単発的なシングルを4枚経た後結成から5年もかかってようやくアルバムデビュー。そのアルバム『Stone Roses』(88年)は最初こそインディーチャート2位、イギリス国内チャート29位と中々順調な滑り出しといった程度でしたが、その天使が小躍りしながら舞い降りてくるような恍惚としたギターポップサウンドに噂が噂を呼びアルバムの評判は全世界に知れ渡ります。メンバーは常にファッショナブルな服装をまといインタビューなどでも言いたい放題で若者の英雄的存在までに上り詰めます。このバンドの登場でポップミュージック的文脈に“マンチェスター”という文脈が誕生したり、日本ではフリッパーズギターの二人がその日本人の“マンチェ被れ”を批判したりしていました(まぁ、そういってる本人たちもかなり被れていたんですけどね)。そういったこともあり、あらゆる意味でこのバンドの1stアルバムは伝説・神格化されるまでになりました。しかしバンドは1st以後、数枚のシングルを出しておよそ5年間の沈黙に突入。そしてゲフィンから発表された『Second Coming』(94年)は派手ながらもどこか不穏な空気漂うへヴィなギターロックアルバムとなりました。それはどうやらバンド内の空気を反映したものだったようで、レニ、ジョン、イアンの順に脱退していき96年にバンドは解散。たった2枚のオリジナルアルバムしか残しませんでしたが、未だに熱心なファンが後をたちません。管理人個人としては一番初めにこのバンドの1stを聴いた時あんまりその良さが分からなかったんです。ハッキリしないボーカルに今思えばハウスっぽいあのゆるーい感じ。でも、段々聴くにつれ良くなってくるんですね、これが。ゆっくりとギターを弾くと言うより鳴らしていくようなジョンのフレーズ、質感は軽いのだけど独特のノリを持ったベースとドラム、そしてなによりも得難いイアンの吹けば飛んでしまいそうな自信や希望を掴んでいるヴォーカル。とにかくマージビートとか西海岸とかのハッキリクッキリの音楽を好んで聴いていたので今考えればすぐわからなかったのも頷けます。そしてこのバンドの1st以降に欧米で大きな潮流をなすインディロック、音響、ダンスミュージックのあり方を考えてもこのバンドの1stの時点でかなり予言的な咀嚼の仕方がされているのにはただただ驚くばかりです。
The Stone Roses』
1、I Wanna Be Adored
2、She Bangs the Drums
3、Waterfall
4、Don't Stop
5、Bye Bye Badman
6、Elephant Stone
7、Elizabeth My Dear
8、(Song for My) Sugar Spun Sister
9、Made of Stone
10、Shoot You Down
11、This Is the One
12、I Am the Resurrection
13、Fools Gold(ボーナス・トラック)
88年発表の伝説的1st(曲順は国内盤)。バンド自体は84年にスタートするも、メンバーやサウンドスタイルの固定が本作に至るまでに約五年もかかっている。しかしそれ故の変な小慣れ感は全く無いのが不思議。そして本作を一言で表すと“若さと希望”だ。1曲目のマニのベースがゆっくり立ち上がってくる、あの感じ。それにレニのキックとジョンのギターが本当にゆっくり絡み確かなものにして行く。そして最後にイアンがそれに物語や心情を載せていく。全体的なサウンドはかなりサイケデリックだが毒々しかったり暗闇を感じさせる物が全く無い。例えるなら、目の前が開けていく感じ。メンバーは日常から薬物を常用していたらしいのでそれの影響もあるだろうが、この感覚はまさしく“覚醒”としか言いようが無い。続くM2も後にシングルカットされる名曲でコーラスとギターの絡みまさしくバーズライクながらも嫌味が無い程度のSEとギターの歪ませ具合が施されており遺産に対する手の加え方と新要素追加のバランスが恐ろしく良い。その後のM3、M4とかなりエフェクティヴでサイケだ。M3などはギターがしつこく歌にまとわりつくがかなり向こう側に飛ばせてくれるエフェクトが随所にあるので鬱陶しくはないし、清涼感がある。M4に至ってはほぼエレクトロニカと言っても良いほどの感触を残す。全体的に本作は歌詞がサウンドに比例してキラキラと輝くイメージを出しているのが非常に面白い。M5、M6になると段々とこのバンドのリズム隊の特異さが顕著になってくる。特にバンド屈指の名曲であるM6はベースとドラムの動きを追ってるだけでかなりニヤついてしまう。しかしこれほど、不確かで洗練されているという不思議な形容が成り立つ名曲はどれほどこの世に存在するのだろうか。この曲のシングル・ヴァージョンもあの特徴的なワウが使われて居ないがかなり天国っぽい(笑)。M7は自分たちが英国のバンドだという意識からか英国民謡「スカボロー・フェア」の歌詞をアレンジした曲が使われている。M8はローゼスの中でもかなり緩めの曲。ブレイクなどをいい所に配置したロマンティックな曲ながらも歌詞は前曲同様絶妙に怒りが織り込まれている。ローゼスの偉い所は歌詞に明確なパンク的政治性を持ち込まなかった所で、恐らく曲の自体の評価が曖昧になるのを避けたかったのだろう(五年もリハし続けた訳だし)。M9はジョンのギターがフィーチャーされた名曲。これまでに少なかったジョンのギターソロが初めて明確に出現する。とはいってもアルバムの空気を乱さないような音にしたのか、かなりソフト。ライブが凄かったんだろうなぁと想像させられてしまう一曲だ。M10もこれまたかなり緩い曲だ。イントロに次作への布石が感じられなくも無い。構成がぶっ飛んでて面白いM11を挟み、本編最後M12が2部構成の名曲。第一部は典型的ローゼスナンバーだが、第2部に入ってからのジョンのギターソロ大会が凄まじい。本作で最もハードエッジな瞬間であると共に本作ではバッキングに徹していたのがジョンが爆発したかのようだ(もしくはジョンに見せ場を提供したのかも)。しかしジョンもさることながらリズム隊の動きもめまぐるしい。こういった互いに配慮しながら自分の好きなことをやりまくってるのは堪らなく好きな瞬間だ。M13のボートラはアルバム発売後に出したシングル曲。延々反復するリズムにワウの掛かり具合が絶妙なギターカッティングが中毒症状を引き起こす。ジェームス・ブラウンの「ファンキー・ドラマー」のリズムのサンプリングだったというが、曲自体は原曲よりレアグルーヴな感じさえないものの、なによりたたき出されるリズムに対する音作りが原曲よりかなりクールだ。国内盤のライナーにもあるがこれでファンクに目覚めない人間は少ないのではないだろうか。かく言う私もこの曲の奇妙さに驚きつつも下半身を擽られる感覚を初めて模様したことはいうまでも無い。以上本編12曲、シングル曲+1曲の全13曲。フレッシュで、野放図で、我侭で、楽しくて、希望に溢れてて、一ミリの英国ならではの憂いが窺える永遠普遍の作品ながらも、これ以上リアルタイムで接した人間に嫉妬を覚える作品であることは後追いの者であればあるほど痛感しているはずだ。