『Tonight's the Night』
1、Tonight's the Night
2、Speakin' Out
3、World on a String
4、Borrowed Tune
5、Come on Baby Let's Go Downtown
6、Mellow My Mind
7、Roll Another Number (For the Road)
8、Albuquerque
9、New Mama
10、Lookout Joe
11、Tired Eyes
12、Tonight's the Night, Pt. 2
1975年7月発表。本作は管理人にとってヤング作品の中でベストであり、実際最も人気の高い作品なのではないでしょうか。時は73年後半、ヤングは『Harvest』(72年)以来交互に続いていた作品的不振・商業的不振の波に飲まれつつありました。そんな状況に追い討ちかけるように友人であった元クレイジーホースのダニー・ウィットン、CSN&Yのローダィだったブルース・ベリーの相次ぐドラッグによる死に遭遇します。彼ら友人が病んでいる状況を知りながらも止める事が出来なかったヤングは失意のどん底に陥りました。そこで悲しみに暮れた彼は同胞のクレイジーホースの面々と酔いつぶれる寸前までテキーラを煽りこのアルバムの殆どを占める部分(M4、M5、M9を除く全て)をスタジオ・ライブ形式でレコーディングしました。しかしあまりに悲痛な仕上がりとなったこのアルバムはレコード会社にl販売を拒否されオクラ入りが決定。代わりの作品として『Homegrown』(74年)というアルバムが作られましたがこれが牧歌的なカントリー調アルバムであまりに刺激の少ない作品だったらしく、またもやレコード会社に販売を拒否されます。しかし同時にザ・バンドのリック・ダンコのアドヴァイスによりオクラだった本作をリリースする事が決定されます。本作の魅力というのは人生で誰しもが生命の誕生よりも必ず多く経験する死による別れの感情が吐露される所にあります。つまり、悲しみ、怒り、後悔、絶望がなんの音楽的オブラートに包まれることなくポッと置いてある所にあるのです。良くこの作品は友人の鎮魂のために作られた作品として語られますが、それは正解でもあり間違いでもあります。この作品は友人の死に対峙し、幸か不幸か生き残ってしまった自分や仲間のための作品であり、死者への“何故?”というあても途方も無い投げかけのために作られた極めてパーソナルな作品なのです。故に本作にある剥き出しのサウンドは『Harvest』でのあまりに装飾過多なサウンドに対するリスナーからの過剰なリアクションに対する反動ともいえ、当時のヤングらしい“反オーディエンス”的な意思がモロに反映された作品と言えるでしょう。アルバムはまさにこの作品がどのように、どうやって作られるに至っているかを歌ったM1で幕を上げる。ピアノ、エレクトリックギター、ベース、ドラムというシンプルな編成の上にヤングが喉を絞り上げるかのような歌声で如何に友人の死を知りえたかが克明にレポートされる。演奏自体はメンバー全員酒が入ってるせいもあってかなりグダグダ。ただ酔いの雰囲気がダウナーだけにどうしても曲の内容と相まって悲痛さが濃厚。M2はカントリーブルーズ調のバラード、M3は典型的クレイジーホースナンバーでどちらも歌詞の内容はなんての事の無い作品だが非常に力強い。M1でみられたような号泣寸前の雰囲気を打ち消すかのようだ。別録音で未発表曲であったM4はなんとローリングストーンズのメロディを借用した曲で、歌詞でそのまま借用した事を歌ってしまってる。今の自分にはまともな曲さえ作れないという歌詞がこの作品の雰囲気に合っているとの判断があったのでしょうか。M5になると急にクレイジーホースとの轟音ライブが挿入されます。亡くなったダニー・ウィットンがクレイジーホース在籍時の1970年フィルモア・イーストのライヴと言う説がありますが確かではありません。それにしても疾走してるヤング&クレイジーホースなんて空前絶後でしょう。この頃のライブ盤があれは一万円位出しても買いますよ、僕は。一転M6はカントリーロック調の味付けが光る名曲。ヤングのヴォーカルが振り切れる寸前で泣いている。この後M7、M8と前曲流れを引き継ぐようなカントリーロック色の強い楽曲が続く。当時のカントリーロックというのはイーグルスやポコのようにポップな洗練がまだなされていないのでかなり土臭く聴こえるがその土臭さ自体が作品をリスナーを突き放さない物にしている要因でしょう。M9はCSN&Yの曲といわれてもおかしくないアコースティックギターの伴奏に綺麗なコーラスが乗る楽曲。アルバム中でも数少ないカントリー色の無い作品で『After〜』に通じる鎮静感が横たわっています。M10はM5と同様のクレイジーホースとのライブ音源。典型的クレイジーホースナンバーで、彼ららしい会心のだらしなさ(by 湯浅学)が光る1曲。M11はアルバム屈指の名曲。カントリー風のメロウな味付けにトーキングブルースの語り口で消えた友人たちに語りかける歌詞が何ともいえない気分にさせられる。そしてアルバム最後M12はM1の別テイク。M1にみられた崩れ落ちていきそうな危うさが全く消えている。ここに存在するのは生きていかなくてはならないという確固たる決意で、それはそのまま演奏のパワーに繋がっている。アルバム最後に同名曲の別ヴァージョンを収めると言うのはこの後もヤングが良く使う手法だが、何度そのパターンを使われてもそのあまりに鮮やかな対比にはいつも胸がすく。以上全12曲。ヤングのアルバム史上最もラフなパワーと独特メロウな質感がコレほど無いまでに絡み合った見事な名盤であり、管理人が一番好きな第二期ニール・ヤング全盛期でも最高の作品だと思っています。(2004年10月30日)
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